「…何でこうなる訳?」


結局、朝練は潰れてしまいミーティングで終わってしまった。

その話し合いで決まった事と言えば、リョーマを各自交代で守る事のみ。

順番で最初になった桃城に向かって、リョーマは溜め息を吐いた。


「何だよ、俺が付き添いじゃ不満なのかよ?」

「誰もそんな事言ってないっすよ、桃先輩」


桃城の腕に自分の胸を当てながら、少し上目遣い。

これで大半の男は落ちるという事を、リョーマはすぐに悟った。

現に目の前の桃城は、鼻血を垂らしそうな勢いでリョーマを見ていた。


「でも、教室入ったら別々だからなぁ…。気を付けろよ?」

「別に平気じゃない?」

「お前なぁ…、現に俺達にもバレてるじゃねぇか」

「あ…そうか」

「もうちょっと危機感ってもの持てよな〜?バレたら退学…って可能性もあるんだぜ?」

「そっか…。それはヤダな…」


子犬のようにシューン…と落ち込むリョーマに、桃城は焦った。

リョーマは知らないが、実は他にも何人かのレギュラーが見張っているのだ。…変な輩が居ないか。

それを探している途中に、自分がリョーマを泣かせたら…考えるのも恐ろしい。


「ま、まぁ気を付ければ大丈夫だ!そんな心配すんな、な?」

「う、うん…?」


急にフォローを入れてきた桃城を不審に思いながらも、リョーマは階段に差し掛かって一度止まった。


「じゃあ、俺は上っすから。桃先輩、またね」


軽く手を振って、階段を上って行くリョーマを、桃城は食い入るような眼で見つめるのだった。




























「おい、越前。今日の一限って体育だぜ。着替えないのかよ?」


不思議そうに訊いてくる堀尾に、リョーマは言葉を詰まらせた。

体操着なんてものを来てしまったら…間違いなくバレる。

仕方ない…と思い、体育は諦める事にした。


「あのさ、俺保健室に行くから…。先生に宜しく」

「へ?おーい!どっか具合悪いのか?!」

「うん…。病気」

「はっ…?」

「じゃあね」


困惑気味の堀尾を後目に、リョーマは保健室でサボる事を決定した。
















































「ちーっす…。頭痛いんで休ませて下さいー」


シーン…


何で先生が居ないんだ?という疑問は、机の上にあった出張中と書いてある紙によって解決した。

居ないならその方が都合が良い。

リョーマはベッドのカーテンを引き開けた。


「あれ、おチビだ〜!何、おチビもサボりか〜?」

「英二先輩…。次、体育なんすよ」

「あ、そうにゃんだ?それじゃおチビは暇だよね」


先にベッドで休んでいた先客は、紛れも無く部活の先輩、菊丸英二だった。

リョーマの姿を見ると、すぐにベットから飛び起きるのだった。


「ふふふふふふvvv」

「何すか…?怖いんすけど…」

「いや、やっぱおチビが女の子なんて信じられなくって…v」

「にやにやしないで下さい。不二先輩に言いつけますよ」

「うわっ!それはマジ勘弁!不二は恐いのにゃ〜…;」

「まだまだだね」


決め台詞を言ったリョーマに、菊丸は抱きついた。


「な、何すか?!」

「ん〜…やっぱおチビって可愛いにゃ〜って思って」

「そんなの嬉しくないっす…。それにこれ、セクハラっすよ?今の状態だと」

「うにゃ〜…おチビってば厳しい〜♪」


ベッドの上でごろごろとしている菊丸の隣で、リョーマは急な腹痛に顔を歪めた。


「…っ!…は、ぁ…!」

「どしたの?おチビ?」

「は、腹が痛いんす…」

「え〜?!ど、どうしよ…先生居ないのに…」


あたふたとする菊丸を余所に、リョーマはその場に座り込んでしまった。


「にゃ〜…。と、とりあえず此処で寝てな?」

「…っす」


菊丸が居たベッドに横になると、人の体温の残る布団に安心感を覚えた。


「先輩…俺、少し此処で寝ていきます…」

「その方がいいにゃ。俺も…って言いたいけど、おチビの事を誰かに言っておかないとね」


クラスメイトに伝えておくね。そう言い残して保健室を出る菊丸。

リョーマはその後姿を少し寂しげに見ていた。


「っ…!ホント、どうしたんだろ…。こんなに痛いの初めて…」


静かに目を閉じて、眠ろうと心掛ける。

じゃないと、痛みに負けてしまいそうだ。


「…は、ぁ…早く、治って…」